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[Radio] KDP ちょっと広帯域

2014年05月22日 22時 更新

ちょっと珍しいアンテナが出来たので紹介する。
仮に「KDP」と呼んでいるが、基本線はダイポールである。特徴としては、少し広帯域であるということ。

このアンテナの開発は、似た分野で少し広帯域なダブルバズーカ・アンテナの考察に その端を発している。
基本形は、2008年 CQ誌にダブルバズーカの記事が出た後のお盆の頃にはできていたのだが、イマイチ盛り上がりに欠けるアンテナのため(^^;)、掘り下げに時間がかかってしまった。

Basic structure of JA7KPI's KDP. KDP is wideband antenna, and it is considered as a kind of self-complementary antenna.

KDPの基本構造は図のとおりで、しいていえばアンバランスな平行二線フィーダの逆相パラレル・・みたいな感じであるが、見方を変えれば普通のダイポールに短いダイポールを逆相接続したものの変型であることが判ると思う。

近接した似たような長さのダイポールを逆接続して、これで はたしてちゃんと電波が出るのか・・ という話にもなるわけだが、MMANAによるシミュレーションではダイポール並みのゲインが計算され、また、実際のQRVによるテストでも電波は問題なく出ているようなのであった。*1


KDP(Inverted Vee type) for 7MHz , Apex angle: 90 deg. Height: 9.3m

写真は、7MHz用KDP。実際の設置環境の関係で逆Vタイプになっている。

長い方のエレメント長は 10.39m、短い方は7.7m。給電部付近は2φ、他は1.6φの裸銅線を使用している。エレメント間隔は0.29m。逆Vの頂角は90°。

スペーサ*2は給電部にのみ入っていて、4本のエレメントをそれぞれロープで引っぱっている。

MMANA data file
7kdp_bh4.maa (7MHz) ←適当にお使いください。*3


SWR vs freq 7kdp_bh4 (by NEC2 for MMANA). Red: actual values. 緑はシミュレーション値、赤が実測値。

SWRの周波数特性は、7.0MHz~7.2MHzにわたり実測で1.8未満となっている。うまく調整すれば、もう少し改善できるだろう。

また、シミュレーションによれば、逆V型式にせずに直線状に設置すれば、もう少し広帯域になるようだが、もちろんエレメント長や間隔を調節し直す必要がある。*4

今回は、NEC2 for MMANAによる計算で確認した寸法で実製作し、そのまま実際に設置してSWR測定してみたが、計算結果に非常に近い測定結果となった。

このアンテナは、深浦町移動で実際に使用した。


実際には製作していないが、シミュレーションでは 1.8~1.9MHzや 3.5~3.8MHzで使えるっぽいデータも作ってみたので、参考までに掲載しておく。

MMANA data file
1r8kdp_1.maa 3r5kdp_a.maa ←適当にお使いください。*5


KDP(Inverted Vee type) for 28MHz , Apex angle: 90 deg. Height: 9.3m

次は、28MHz用KDP。これも逆Vタイプ。短い方のエレメント端にスペーサ*6を配置し、そこからロープで引っぱっている。

長い方のエレメント長は 2.73m、短い方は2.33m。2φの裸銅線を使用している。エレメント間隔は0.14m。逆Vの頂角は90°。
28MHzバンドも、普通のアンテナではその全域をカバーすることが難しいと思われる。

MMANA data file
28kdp_b.maa (28MHz) ←適当にお使いください。


SWR vs freq 28kdp_b . Red: actual values. 黒はシミュレーション値、赤が実測値。

SWRの周波数特性は、実測でバンド内1.8未満となっている。シミュレーションでは もう少し良い特性となっているが、まあ、かなり近い値といってもいいだろう。

実測値が計算とズレたのは、直下に位置するクルマの外周長が28MHzの波長である約10mにかなり近いのも影響しているかもしれない。

また、実際の設置では、地上高を変化させるより 逆V頂角の変化の方がSWRに悪影響を与えやすいようであった。

このアンテナは、オール東北コンテストで実際に使用した。


KDP(Inverted Vee type) for 50MHz , Apex angle: 90 deg. Height: 5m

次は、50MHz用KDP。これも逆Vタイプ。スペーサが計5本入っている。

長い方のエレメント長は 1.53m、短い方は1.3m。2φの裸銅線を使用。エレメント間隔は約8cm。逆Vの頂角は90°。
50MHzバンドも、普通のアンテナではその全域をカバーすることが難しい。

なお、このアンテナは Es狙いだったので地上高約5mに設置した。

MMANA data file
50kdp_5m.maa (50MHz) ←適当にお使いください。


SWR vs freq 50kdp_5m . Red: actual values. 黒はシミュレーション値、赤が実測値。

SWRの周波数特性は、実測でバンド内 2未満となっているが、53.4MHzになぜかディップがある。そのほかはシミュレーションに近い値となっている。

このアンテナは、オールJAコンテストで実際に使用した。

なお、逆Vではなく直線状にすれば、バンド内1.5未満でおさまるというシミュレーションもあり、参考までデータファイルを掲載しておくが、実製作はしていない。

MMANA data file
50kdp_L.maa ←適当にお使いください。


KDP for 50MHz/28MHz , Height: 3m

さて、いままでは シングルバンドでのハナシであったが、今度はデュアルバンドである。
もしかして、うまく作れば隣り合うふたつのバンドで使用可能なKDPができるのではないか・・と、当然考えるわけだ。

で、以前作った衛星AO-7用の29MHz用ダイポールを改造して50MHz/28MHz用にすることにした。

長い方のエレメント長は 2.45m*7。短い方は1.26m。このアンテナに関しては、2φのポリエチレン被覆線(古河ビーメックス)を使用。エレメント間隔は0.42mとちょっと広い。

MMANA data file
KDP2850_real.maa (28MHz/50MHz) ←適当にお使いください。

このアンテナは、JIDXJA0-VHFなどで実際に使用した。

SWR vs freq 28MHz KDP2850_real . Red: actual values. 黒はシミュレーション値、赤が実測値。

SWR vs freq 50MHz KDP2850_real . Red: actual values. 黒はシミュレーション値、赤が実測値。

SWRの周波数特性は、さすがに被覆線使用と地上高が低いのに加えクルマの影響もあるようでシミュレーションどおりとはいかなかった。*8

28MHzでは、2線式の普通のダブルダイポールでも この程度の性能は出るものと思われる。しかし、50MHzではこちらのKDPの方が2倍程度の帯域を稼ぐことができるのではないだろうか。

デュアルバンドKDPについては、28/50のほかにも 24/28 18/21*9 21/28 14/21などのシミュレーション・データを作成できている。ここに掲載したデータを元にMMANAの編集→アンテナのサイズなどの機能を使って各自やってみていただければと思う。

一例として、21/28MHz用KDPのデータをあげておく。

MMANA data file
21-28kdp_L.maa ←適当にお使いください。

このアンテナ、確かにそれなりの帯域幅を稼ぐことができるわけだが、エレメントも2倍必要になる*10。そして、当方はあまり帯域幅に依存しない運用形態がメインとなっており、また、ゲイン的に見るとほとんど普通のダイポールと同じであまり魅力がない。そんなこんなで手を付けるのがかなり遅くなってしまった。*11


理論的なことを考えると、このアンテナは 逆相給電*12がキモであり、ログペリとかと同様の 自己補対アンテナの変型であろうと思われる。

実際の動作では、長い方のエレメントを切り詰めていくと、インピーダンスは低下、リアクタンスはマイナス(容量性)方向へ動く。短い方のエレメントでは、これが逆となる。ということは、周波数が動いてもインピーダンス一定であり続けようとするわけで、これが広帯域性のモトなのだろう。

現在、さらなる多バンド化について考察しているが、14/21/28/50の4バンドKDPのシミュレーション・データは いちおうできたものの、その先に到達できないでいる。(^^;)


*1 ダブルバズーカでちゃんと電波が出るのも芯線と外被の径に差があるから・・ かも?

*2 15φくらいのプラスティックパイプ

*3 地上高が低く大地の影響が無視できずMMANA自体で計算するとかなり誤差が出る。NEC2で計算できるアプリが必要。

*4 間隔の変化に対するSWRへの影響は小さいようだが、逆Vの頂角や地上高の影響はけっこう大きいようだ。

*5 こちらも、地上高の影響が無視できず、NEC2で計算できるアプリが必要。

*6 10φくらいのプラスティックパイプ

*7 ただし少し変型させている。

*8 というか、このデュアルバンドKDPのシミュレーションによるSWRのグラフは、まずMMANAである程度シミュレーションをおこなった上で 実際に製作調整を実施し最終的に完成した寸法を入力して出力されたもので、あまり意味ないかもしれない。(^^;)

*9 普通のデュアル(2線式)・ダイポールでは、14/18 18/21 21/24 24/28などの近接した両バンドでうまく動作するものを作ることは ちょっと難しいが、KDPならば容易である。

*10 ただし、ダブルバズーカのように比較的高価な同軸ケーブルは必要ない。これは長所・・ かも?

*11 決して特許とることを考えていたのではない。(^^;)

*12 Transposed Excitation ・・でも単純にクロスさせた逆相給電よりKDPの方が広帯域になりやすいような気が・・それは より自己補対の原点に近いから? (^^;)

Tada/JA7KPI : 2014年05月19日(月)
コメント(4) [コメントを投稿する]
β教粗 2014年05月21日(水) 07時

ははあ。なるほど。折れたヘンテナって、これだったんですか。<br><br>これって逆相給電なんでしょうか。<br>構造的には同じ長さのエレメントなんだけど、給電点が互いに少しオフセットしているということなんですね。<br>自己補対ということですが、低い周波数では長い方のエレメントが効いて、高い周波数では短い方のエレメントが効いて、結果、広帯域になる、という直覚的な理解でよろしいんでしょうか... 後でシミュレーション掛けてみたいと思います。<br><br>あとグラフの凡例が無いので、緑や黒がシミュレーション、赤が実測とか書いてもらうと有難いです。

JA7KPI 2014年05月21日(水) 19時

>構造的には同じ長さのエレメントなんだけど、給電点が互いに少しオフセット<br><br>Hヘンテナに近い見方かな? じゃなくて、オフセットしてないちょっと長さの違うダイポールのクロス給電といった方がいいのかな。<br>ズレた形じゃなくて、前後のエレメントが整列してて給電点がナナメになってるバージョンもシミュレートしてみましたが、ダメでした。<br><br>>低い周波数では長い方のエレメントが効いて、高い周波数では短い方の<br><br>完璧な自己補対アンテナではないし、やはり線状アンテナなので、そのような動作もあるとは思いますが、基本は短い方のエレメントが(デュアルバンド・タイプでは両方のエレメントそれぞれが)イコライザ的な役割をしてインピーダンスやらリアクタンスが大きくズレるのを補正するみたいな動作かなと思います。そして、そのイコライザ的な動作は逆相接続じゃないとたぶん出てこないんですね。<br>スタブとか集中定数で広帯域性を出せないかも検討しましたが、今のところKDPには負けています。<br><br>KDP、今は昔「漢字ディスプレイ端末」だったのに、最近では「電子出版サービス」の類の略語でもあるのね。(^^;) (無線方面では、レーダ関係で「比偏波間位相差」を意味するみたいだけど、DPは Differential Phase として、K は 何?? 大気にかかわる数ってことか?)<br><br>あと、画像をマウス等でポイントすると、データ等コメントが出るようになってますのでお試しください。(ブラウザがIEだと、5秒程度で消えてしまうので気がつきにくいかもしれません)

β教粗 2014年05月22日(木) 17時

> オフセットしてないちょっと長さの違うダイポールのクロス給電といった方がいいのかな。<br><br>だとすればナガラなんかの給電部だけログペリ状になっている八木と同じ? <br><br>一番先頭のbasic structureの図で、-X方向のエレメントの全長は1.22+1.48=2.7mで、+X方向も同じ長さですよね?<br>それらを少しオフセットさせて、全体の中央にバランの左右の端子から給電していると解釈していました。<br><br>動作原理は、ある周波数では長い方がインダクティブになっていて短い方がキャパシティブになっていて互いに打ち消し合うというのは理解してました。<br><br>全長をL、長い方をa、短い方をL-aとして、あるLについてaを変化させてシミュレーション掛けて、Lで中心周波数に共振させて、aとL-aで実数分を50Ωに近く、リアクタンスを0に近くなるようにするわけですが、地上高は一定にするとしても、スペーシングの影響か、Lがかなり短くなるし、直接給電でSWRを低くするのはシミュレーションでは難しかったです。ただ、帯域が広そうなのはわかりました。<br><br>試しに昔のテレビアンテナのように短いのと長いのを同じ方向にしたコニカルDPみたいなのにしたり、90度にして風車型にしたりしましたが、別の特性になったので、二つのワイヤが近接しているのもミソなのだと思いました。

JA7KPI 2014年05月22日(木) 22時

>全長をL ~ Lで中心周波数に共振させて<br>Basic Structureの図でいえば、1.48+0.15+1.48というダイポールがやはり基本となります。これに対して1.22+0.15+1.22という短いダイポールが逆相で接続になってるという見方ですね。<br>1.48と1.22のラインは常に逆相になるらしく、1.48+1.22のラインでは共振はしません。ここが Hヘンテナと違うところで、一見似てるのに不思議だなぁ・・と。<br><br>>二つのワイヤが近接しているのもミソ<br>ここは ご指摘のとおりだと思います。逆V化したりデュアルバンド化したりすると直線状のときよりも最適間隔は広がるようなのですが、なぜそうなるのかは謎です。


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