Inverted Vee for 160m (1.9MHz 移動用 逆V)
Consideration of very low antenna in comparison with wavelength

別ページでも紹介しているとおり、移動といえば50MHzと相場が決まっていたJA7KPIだが、最近は 1.9MHz でも細々と移動運用しているのである。
1R9 Inverted Vee at JCG04007 view from edge of element えーーっ聞いたことないよ・・・という方も多いだろう。それもそのはず、1.9MHzの運用だというのに、日没とともにQRTしてしまうという非道なことをやっているのである。多くても 一移動地あたり2〜30局程度しかQSOできず、某AJA板にも載らないのだから知らなくて当然・・・かもしれない。

キッカケは1996年の ALL JA コンテスト だ。3.5MHzシングルバンドで参加したのだが、通常の伝搬とは異なるなんか変な入感のしかたがおもしろかった。あのふわふわしたQSBのあるやつだ。それで、ALL秋田コンテストのルールが変更されたとき、50MHzと1.9MHzで参加してみた。
しかし、ALL秋田では21〜23時と05〜07時がコンテスト時間帯であり、おもしろそうな06時以降はみなさん3.5や7MHzに移ってしまう。こちらとしては、変な伝搬を期待しているわけなので、これでは幸せになれそうもない。(もちろんコンテストなのだから割り切る必要もあるし、夜中にだっておもしろい伝搬はあるのだが)


1.9MHzといえば波長は157m。いつも使っている フジ インダストリ の伸縮マスト(FSP610D)の最大長は9.4m。つまり 0.06波長 程度の地上高しかかせげない。たとえダイポール(Dipole)にしたとしても給電点インピーダンスの純抵抗成分は10Ω程度となり、マッチングに苦労するだろうと考えていた。
ところが、ALL秋田で30m長50m長のロングワイアでQRVしたところ、ATU(アンテナチューナ)の規格では最低対応インピーダンスが20Ωとなっているのにもかかわらず、割と簡単にマッチングがとれてしまうのである。これはいったいどういうワケだ?? (<そんなん、どーだっていーじゃん Teamのめ**き Hi)

ここで、アンテナ解析ソフト MMANA に登場してもらおう。このソフトに1.9MHz用ダイポールのデータ(全長76.76m 1.6φ銅線)をぶち込み、給電点地上高を9.3mとして計算させると、給電点インピーダンス=13.74+j2.2Ωという結果 (大地の導電率=10mS/m 比誘電率=6 の場合) になる。SWR=3.65 (50Ω)である。
Unsuccessful off-centered invee test version 13.74Ωということになると、1:4のインピーダンス変換トランスをトロイダルコアなんかで作ってやるとSWR=1.1程度にできそうである。
変換トランスを使わずに給電点インピーダンスをあげる方法としては、 Windom Antenna でおなじみの「オフセンタ給電 (Off-Center Feed)」という手がある。つまり、給電点をダイポールの真ん中ではなく、端にズラすのだ。
そして、できたのが上の図のアンテナである。こんなん、マトモに動くんか!?・・といった感じだが、MMANAの計算では 44.42-j0.05Ωで SWR=1.13なのであった。

さっそく実際に作って近所の堤防に移動し、電波を出してみた。
しかしSWRはきわめて悪く、どこで共振しているのやら全くさっぱり判明しない。思わずクラニシのSWRアナライザ (BR-210)を衝動買いして測定してみるが、やはりぜんぜんダメダメなのである。1.91MHzとはいかないまでも、1.8〜2MHzのあたりにいくらかマシなポイントがあるのではないかといろいろやってはみたが、けっきょく判らないのであった。
アタマに来てATUで無理矢理QRVするが、飛びも悪く、CQへのコールバックは少ない。このアンテナは無かったことにしようっと。(^^;)


Structure of Invertrd Vee for 160m気を取り直して、再度SWRアナライザで測ってみると、予想よりもかなりインピーダンスが高い雰囲気 ( j成分が測定できんのは、痛いな)。インピーダンスのアタリ(推測)をハズしてしまうと、共振点もワケワカラズの状態に陥ってしまうようだ。それで、長い方のエレメントを切って短い方へ継ぎ足してみることにする。
したっけ(「そうしたら」の秋田弁)、継ぎ足すごとにSWRが良くなっていく感じなのである。5、6回も右から左へ汗だくになって切っては走り、継ぎ足し、SWR測定、また走り、切って走って継ぎ足して、あっちゃからこっちゃへ・・・あら不思議、いつのまにか限りなく普通の 逆V (インバーテド V)アンテナになってるじゃあーりませんか。
SWRを測ってみると、1.1未満である。げぇっ・こ・・・これはいったい・・・・・13.74ΩというMMANAの計算結果、あれは何だったの?? 逆Vなんだから、もっと低くてもいいはずなのに・・・

MMANAの計算エンジンは「 MININEC Ver3 みにねっく 」である( MMPC も同じ)。ネットをさまよい歩いてみたら、「MININEC は Antenna impedance is always calculated based on Perfect Ground.」なんだそうだ。
そういえば、MMANAで「計算条件」の「完全導体グランド/リアルグランド」を切り替えても、ビームパタンは変化するもののインピーダンスの計算結果には変化がない。
よくよくマニュアルを読んでみると、このことについての注意がちゃんと記述されているのであった。森氏曰く、

リアルグランドを選択した場合、「MININEC3」のアルゴリズムでは、パターン図を得るための遠方電界強度の計算にのみ影響し、インピーダンス計算では完全導体グランドと仮定されますので注意が必要です(地上高が波長と比較してかなり低い場合は実際よりZが低めに出ます)

なんということだ。答えは初めからマニュアルに存在していたのである。
まてよ、どっかの本に給電点地上高とインピーダンスの関係のグラフがあったような・・・とアンテナ本を発掘したところ、CQ出版の「アンテナハンドブック」と「ワイヤーアンテナ ハンドブック」に完全導体大地と実際の大地とのインピーダンス比較(ダイポール)のグラフが載っていた。
それによると、かなり低い(0.1波長未満)地上高でインピーダンスが低下するとしても、40Ω程度までという感じに読みとれる。世の中、うまくできているもんだなぁ。40Ωといえば、SWR=1.25である(ただし、エレメント長がきわめて短い場合、当然40Ωよりも低下し、ATUでマッチング不能になることもあると思われる)。いろんな本の記事やWebページで、SWRがちゃんと落ちている地上高が低い1.9のアンテナ を見て、なんでだろーなんでだろー・・と不思議だったのだけれど、これでようやく解決??
(「JARLアマチュア無線ハンドブック1981」には、「土質により異なるが実際には20Ω以下にはほとんどならない」という記述もあるようだ)


1.9MHz inverted Vすると、最初に実験したオフセンタ給電アンテナは、インピーダンスが高すぎたってわけか・・。イイカゲンなロングワイアがATUでマッチングがとれたのもインピーダンスがそんなに低くはなっていなかったからなのね。
2004年のALL秋田では ガンママッチの逆L と完璧に近いアースを用意したにもかかわらず、どうにもマッチングがうまくいかず苦しんだのも、こいつが原因だったわけだ。
いずれにしろ、MMANAでは「地上高が波長と比較してかなり低い場合」にはインピーダンスが低めに計算されてしまう。その「かなり低い場合」というのは、アンテナ本のグラフから、だいたい 1/6波長程度未満と読むことができるだろう。(ちなみに、インピーダンスの低下は、大地反射した電磁波が再びエレメントに戻って来て誘導電流が流れることに起因するらしい)

となると、1.9MHz帯では(1.8MHz、3.5でも)MMANAのインピーダンス計算には不安があることになる。しかし、それでは、MININECではなく、MINIじゃないNEC ってのがもしかしてあるのではないだろうか・・・。
もちろん、あるわけで、しかもMMANAのWebサイトからLINKが張られているというダブルパンチ。(^^;)
それが NEC2 for MMANA である。
このソフトで使われている NEC2 は、実際の大地に近いグラウンド・モデル(Sommerfeld-Norton Ground)を想定してのインピーダンス計算や絶縁(誘電体)被覆の電線をエレメントにした場合の計算も可能のようだ。
Screenshot of NEC2 for MMANA - Calculated resultMMANAの英語版やロシア語版にすぎないものと誤解していたのだが、MMANAのデータファイルを読むことができ、別計算エンジンでシミュレイトできる優れモノのソフトなのであった。さあ、キミもさっそくダウンロードしよう!! (ここのサーバ、すっごく重いけど)

NEC2 for MMANAで最初のオフセンタ給電アンテナのインピーダンスを計算させると、やはりかなり高く、200Ωを超えていた。また逆Vの方は、お見込みのとおり40Ω程度であった。
そんなわけで、これで精神衛生上の問題なく、かの逆Vを使ってQRVできるようになったのである。フルサイズであるからか、「UR 599 FB」と打っていただくことも増え、さらに幸せモードのKPIであった。



さて、実際の逆Vアンテナ(1.6φの裸銅線)の寸法を測ってみたら、35.84m + 36.00mとなっていた。これで、複数のSWR計で SWR<1.1 となっている。
MMANAで最適化させてみると、片側36.74m程度になってしまうが、NEC2の方でやってみると36.11mであり、NEC2による計算の方が実際の寸法に近い。

しかし、これでもピッタリではないわけで、現場(現地)の大地の導電率・誘電率の影響による差異と考えられる・・・と簡単に書いてしまうのもナンなんであって、つまり、短縮率=91% なのだ。誘電体被覆なしでこの値というのは、さすがに予想していなかった。当初は、なんぼなんでも 0.95あたりだろうとふんでいて、SWR調節でエレメントを切っているときにも 「こんなに切っちゃって大丈夫??」 なんてビクビクしていたのである。やはり、実際にやってみないと判らないもんだなぁ。(反省しきり)

逆に、実際のアンテナの寸法とSWRから、移動地における大地の導電率・誘電率をNEC2の計算により推測してみると、どちらも 5 程度という結果になった。「秋田県沿岸部の導電率はかなり高め」という情報(MMPCのマニュアル)から、導電率=10に設定していたが、今後は 導電率=5 比誘電率=5 に設定することにした。
導電率・誘電率にも周波数特性があるのかもしれないし、地域差も大きいと思われ、かの情報の測定環境が判らない限り、NEC2の計算結果の方を今は信じてみようというわけだ。

Height of Element-edges to Gain and SWR-minimum-frequency Feedpoint:9.3m
el.edge h.Relative GainSWR-min-freq
0.3m0.00dB1.91MHz
1.0m0.65dB1.94MHz
2.0m1.34dB1.96MHz
3.0m1.92dB1.97MHz
5.0m2.95dB1.99MHz
9.3m4.61dB2.01MHz

ちなみに、砂浜で運用したときは、SWR最小の周波数が約60kHz低下して1.85MHzになり、1.91MHzでのSWRは2.5を超えた。一瞬、エレメントが伸びたのかと思ってしまったが、砂浜は比誘電率が大きく(10以上)、導電率が小さく(1程度)なるらしい。これもNEC2で シミュレーション可能であった。
大地の誘電率が大きいと共振周波数は低下し、導電率が大きいと給電点インピーダンスが低下するようである。

(積雪による影響については、積雪数cm〜20cmで実験してみたところ、有意差は認められなかった。しかし、まだデータ不足かもしれない。・・・後に積雪100cm程度の環境で実験したところ、少しだが共振周波数の低下が確認できた)

給電点高を9.3mに固定し、アンテナゲイン 対 エレメント端の地上高 についてNEC2でシミュレートしてみると、エレメント端高=0.3mの逆V と エレメント端高=給電点高=9.3mのDPでは、約4.6dBのゲイン差があることがわかった(オリジナルなMMANAの計算結果には、これだけの差は現れない)。4.6dBというと、電力比で約3倍。Sメータの振れにして 1弱ということになるが、コンテストやノイズすれすれのQSOのときは、この差が実感できるかもしれない。(ちなみに、エレメント端を上げていくと、SWR最小周波数(≒共振周波数)も上昇していくので注意が必要だ。)

実際の大地は放射電力を喰う(消費/熱に変える)抵抗体であるということか。そのせいか、シミュレーションによれば、ローバンドのクワッドでは下側のエレメントは大地に近すぎてほとんど効かない。単純な逆Vに比べて利得が半分程度に低下する。また、2エレ八木にするとF/B比はそれなりだがゲイン上昇は2dBがいいところで、波長に対して地上高が低い場合は、多エレ化する労力を地上高を上げることに使った方がいいのではないかと考えられる。


1.9MHz inverted Vさてさて、写真ではほとんど判らないが、給電点には安売りで購入した コメット のバラン(BALUN/CBL-30? 強制バランらしい) が入っている。ケーブルはいつも50MHzで使っている8D2Vだ。確かに重いが、八木をあげるのに比べると軽すぎるといってもいい。脚立も小型のものでOKだし。
エレメント用の支線は、クレモナロープ。碍子の類は使っていない。裸銅線(絶縁被覆無し)のため、エレメント端は、ホントは人の手が届かない高さにまで上げて感電防止策(数百V〜ンkV?)をとるべきなのだろうが、そこまではやっていない。現地によっては、エレメント端が地上高10数cmなどという場合もある。まあ、移動地点はあまり人の来ないところを選んでいるし、特に子どもには注意しているつもりである。

上の表にあるように、エレメント端をある程度上げて利得を稼ぎたいところだが、ただでさえ手間のかかるフルサイズである。補助マストや立木を利用できない場合は地面にペグを打つしかないし、そのつどエレメント端高の変化によるSWR調節をしなければならないのも疲れる・・・(^^;)

1.9MHz移動時のJA7KPI/7としては、だいたい15時頃からQRVし始めるが、さすがにハイバンドがFBな(というか、1.9は飛ばない)時間帯でもあり、ほとんど呼ばれない。ワッチしている局自体少ないのであろう。なんとかQSOできるようになるのは、16時を過ぎた頃からである。(15時台にはまったく飛ばないのかというと、そうでもないのだが)
そこで、しかたなくこの逆Vで10MHzにも出ている。NEC2の計算値ではインピーダンスは約150Ω、SWRは 5程度(実測では3.5〜4)だ。この程度であればATUで割とすんなりマッチングがとれる。
10MHzでは高調波アンテナとなり、指向性はエレメント展開方向に出るため、この逆Vはいつも南北方向に張るようにしているが、それなりに飛んでくれているようである。
ちなみに、このアンテナ、うちのATUでは7MHzと18MHzでのマッチングがとれない。その他のバンドであれば、なんとかATUが頑張ってくれるようだ。
まあ、1.9MHz用の半波長DP系のアンテナなので、奇数倍の高調波に近いバンドであれば、マッチングがとれやすいということはあるのだろう。(積雪が多い場合など、現地の環境・・・比誘電率によっては、3.5MHzでもダメなときもあるし、18MHzでマッチングがとれる場合もある)

冒頭で書いたとおり、暗くなってからの撤収 (36mもの裸銅線を2回も巻き直すのは時間がかかる) を避け、かつ夕飯に間に合うように17時頃にはQRTしてしまうという運用が多いわけだが、どうかご理解をいただきたい。SRI。

たかが逆V、されど逆V・・・今回はダイポール系アンテナの原点に帰ってみて、久々におもしろかったなあ。(けっきょく何の変哲もないタダの 逆V かい Hi ・・・しかし、これですべてが終わったわけではない・・・)


追記:

通常、逆Vの指向性といえば、ダイポールと同様にエレメント展開方向と垂直方向に出る・・・はずなのだが、地上高の低い場合はそうはならない。基本波である1.9/1.8MHzで使う場合も「指向性はエレメント展開方向に出る」と思った方がいいようだ。

国内QSOのように高い打ち上げ角の伝搬を使用するときはほとんど無指向性でも、DX-QSOのようにきわめて低い打ち上げ角、例えば10度では、エレメント展開方向の垂直方向へのゲインは、展開方向よりも 7dB程度低くなってしまう。電力比では 5倍であり、この差は大きいといえるだろう。
言い換えると、エレメント展開方向の方が打ち上げ角が低いのだ。移動運用でDXを狙う際は、できるならこのことを考慮に入れて展開方向を決定するのもいいのではないだろうか。

画像は、垂直面指向性の比較グラフ。赤がエレメント展開方向、青がエレメント垂直方向である。

ただし、HF LOW BANDでは、あまり低角度ではなく、やはり30〜40度程度で入射してくる・・という調査(研究)結果もあるようだ。これについては、さらなる研究に期待したい。

NEC = Numerical Electromagnetic Code


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