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[Radio] ヘンテナのおさらい

2023年12月12日 22時 更新

令和5年(2023年)12月期の第一級アマチュア無線技士国家試験の問題に ヘンテナが登場した。いわゆる『新問』らしい。

2023.12 1アマ 無線工学試験問題 A-20


ヘンテナというアンテナの成立が 1972年11月、当方が初めて作ったのが 1978年6月*1、電子通信学会技術研究報告*2に取り上げられたのが 1981年10月。
それから40年以上経っている。

ヘンテナも『枯れた技術*3として認められているということか。いまさらだが なんか嬉しい。



問題の選択肢1、ヘンテナは平衡型アンテナか? ということだが、まぁ見れば判るとおり左右対称な形をしているし、平衡型アンテナであろう。とすれば、不平衡型である同軸ケーブルを直接つなぐのではなく、バランを介したほうがいいのかな。

バラン挿入による給電 同軸ケーブル直接給電


バランで平衡-不平衡変換がなされるが、具体的にどういう違いがあるのかというと・・

図はヘンテナ+同軸ケーブルのMMANAによるシミュレーション。左が同軸直接、右がバランあり。青の水平偏波部分の電流分布に着目すると、同軸直接では左右対称ではなく、しかも同軸ケーブル部分にも電波が乗っていることが判る。

これに対し、バランありの電流分布は左右対称で 同軸ケーブルに乗る分は ほぼない。




水平面指向性。青がバランあり 赤がバラン無し。水平|垂直偏波合算。 シュペルトップもどき(平行二線式?)


次は バラン無しとバランありの水平面指向性比較図。青がバランあり 赤がバラン無し。

大きな差はないともいえるが、サイドの切れと ケーブル部分で拾うノイズ、インターフェア等の改善は期待できるだろう。*4

なお、バランのシミュレーションは 右のとおり いわゆるシュペルトップ・バラン(簡易型)として計算した。*5



問題の選択肢2、l の長さを変えると抵抗成分の変化は比較的小さいが、リアクタンス成分の変化は大きい・・

この点については 1981年の技術研究報告で既に言及されている。長辺Hを半波長とすれば、給電インピーダンスで その横幅Wは ほぼ決定してしまい、あとはスライド部分の lを調節して共振させ SWRを落とす・・ということになる。

1981年の報告では 次のようになっている。

(エレメント半径=0.005λ)
インピーダンス 50Ωの場合 W=0.147λ l=0.087λ H=0.5λ
インピーダンス200Ωの場合 W=0.274λ l=0.183λ H=0.5λ


あらためて MMANAで 50.3MHzにおける各給電インピーダンスの場合の寸法を計算してみた。

Imp.(ohm) W ( m ) l ( m )G(dBi)SWR
50 0.8450.4709.68 1.16
75 0.9190.5189.64 1.09
112.5 1.2000.7249.49 1.04
200 1.4980.9999.29 1.12


なお、長辺Hの寸法は 3m(0.503λ)固定*6、エレメント径は上下の水平エレメントが直径20mm、垂直部分と給電部分は 直径2mm。高さは上辺のエレメントで6mと設定した。*7

スタンダードなヘンテナの幅は だいたい1/6波長といわれてきたが、1/7波長に近い方がSWRが良いということになりそうだ。


給電点インピーダンス(50~200Ω)とSWR特性


給電点インピーダンスを上げると ゲインが少し犠牲になるようだが、大した差はない。

しかしながら、SWRの帯域には相当の差が生じる。

50Ωや75Ωでは 狭帯域といわざるを得ず、112.5Ω設計のものを 75Ωケーブルを使用した Qマッチで、200Ω設計のものを 4:1のUバランで給電するのがベターではないかと思われる。
だが、シンプル イズ ベスト で、狭帯域を認識しつつ使用するのもアリだろう。

※ 本稿での寸法は すべて裸銅線(被覆の無い電線)使用を想定している。ビニル被覆電線を使えば 被覆であるビニルの比誘電率の影響により大幅に寸法が狂う可能性がある。



問題の選択肢3、 図の状態における電波の偏波面は垂直・・ これは間違っている

水平面指向特性。黒:水平偏波成分 赤:垂直偏波成分


形状が縦長のため 垂直偏波が優勢と誤解されるかもしれないが、縦長の状態で 水平偏波。横に倒して 垂直偏波となる。

したがって、この試験問題の答は この 選択肢3 である。

選択肢1で示した電流分布を見ると、水平エレメントの電流は位相がそろっている。このため水平偏波成分が優勢となる。
垂直部分の電流は逆位相になって打ち消し合う部分があるが完全には無くならず、垂直偏波成分は少し真横に出ることになる。*8

このため サイドが完全には切れないという水平面指向性パターンとなる。*9



問題の選択肢4、水平面内指向特性の半値幅(半値角)は、1 波長ループアンテナに比べて広い・・

電力半値角 Left to Right Hentenna/1λLoop/Dipole


MMANA-GALで計算してみると 確かにそのとおりで、ヘンテナは44度、1波長ループ*10は42度であった。

これは水平部分エレメントの長さによるものか? ダイポールの計算値は39度となるので それで正しいのかな・・と。(^^;)
しかし、実際にはこの差を実感することは難しいのでは?*11



問題の選択肢5、利得は、1 波長ループアンテナに比べて大きい・・

水平/垂直指向特性比較。青:ヘンテナ 緑:1波長ループ 赤:ダイポール


これも計算*12してみると そのとおりで、ダイポールに対し約3dB、1波長ループに対し約2dB勝っている。

半値角が広いのに利得で勝るのは 垂直面指向性を比べれば一目瞭然だ。

ヘンテナは 折り曲げたダイポールの2段スタックのような動作となり、垂直面指向性が絞られる分 利得が高くなるのである。



水平/垂直指向特性比較。地上高 4.5m 青:ヘンテナ 赤:ダイポール 紫:HB9CV


おまけである。

お手軽移動運用を想定し、地上高 4.5mでの ダイポール ヘンテナ HB9CV(2エレ)の指向性比較。

この比較、ヘンテナには分が悪く 最大輻射打ち上げ角が他のふたつに比して少し高い。
これはヘンテナの下辺が大地に近すぎる(1.5m)からであろう。この影響を受けてダイポールとの差は 2dB弱に低下。やはり 最低でも 半波長(3m)は欲しいところだ。

HB9CVは さすがにビームアンテナだが、高仰角への輻射が大きい。ダイポールも同じ。
上への放射は下への放射の反射分という見方も可能なわけで、周辺や自局自体が発生させるノイズに弱いということにもなる。

それに、市販のHB9CVの値段は高い*13。ヘンテナは うまくすると数百円で製作できる可能性もあるし、自分で改良していく楽しみも生まれるのではないだろうか。

ぜひ ヘンテナを作ってみていただきたい。アンテナ自作派のさらなる登場に期待するものである。


*1 THE FANCY CRAZY ZIPPY No.40(FCZ研究所)

*2 『スイスクワッドアンテナとヘンテナの放射特性』 東北大学工学部 前田忠彦 沢谷邦男 石曽根孝之 虫明康人

*3 リンク先にもあるが、良い意味である。当方はプログラミングやネットワークがらみでこの言葉を知った。

*4 今回のシミュレーションでは ゲイン差も0.5dB程度認められたが、実際の運用では この差は認識できないだろう。

*5 間隔36mm、長さ 1.427m。同軸ケーブルの外被に網線を被せるタイプでは 外被の比誘電率により短縮され もっと短くなる。

*6 今回は長辺を ほぼ半波長の 3mとしたが、ヘンテナの長辺は半波長でなければならない と いうことはない。

*7 表のGainは グラウンド・リフレクション込みの値である。

*8 給電部分をナナメにするなど 左右垂直エレメントの位相バランスを崩すことで垂直偏波が優勢になる場合もある。

*9 水平ダイポールには垂直のエレメントが無いため、サイドの切れ込みは ヘンテナよりも深い。

*10 MMANAでは円形ループのデータを作ることはできないので、8角形ループとした。

*11 こんな選択肢 よく入れたもんだ・・なんてね(^^;)

*12 自由空間を設定。

*13 まぁ HB9CVに限らず 市販製品は高価なのよね・・

Tada/JA7KPI : 2023年12月10日(日)

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