衛星AO-7のMode Aのダウンリンク信号(29.45MHz)は、とにかく聞こえない。
しかし、移動したときなどはわりと良く聞こえる場合もあるから、いったいどーなっておるのだ状態 であったのだが、移動はさておき、自宅シャックでの受信状態がきわめて悪いのだということにようやく気がついた。
ほぼ天頂付近を通過する場合でも、ぜんぜん強力ではなく、まったく聞こえない場合の方が多い。
AO-7の29MHz用アンテナは、ダイポールである。
自宅のアンテナはちょっと傾斜しているものの、東西方向に張った水平ダイポールである。
というわけで、ウチのアンテナは固定されているから、問題となるのはAO-7側のアンテナの向き・・つまりAO-7の姿勢ということになる。いったいAO-7はどのような姿勢で飛んでいるのであろうか。
1 2 3 | ←□ ←−□− ←□ | ------------Earth-------------GL 1. アンテナの軸は地球の重力方向を向いている。つまり常に垂直偏波。 2. アンテナの軸は進行方向を向いている。つまり南北に張ったダイポールと同等。 3. アンテナの軸は進行方向および重力方向に対して垂直。つまり東西に張ったダイポールと同等。
当初、1970年代のアマチュア衛星だから姿勢制御機構の搭載は無いだろうと考え、重力勾配によって長軸=ダイポールの軸が重力方向を向く、つまり上図の1.の姿勢なのではないかと考えた。
しかし、それだと、衛星が天頂に来たときには真下にはほとんど電波が来ないことになる。確かに天頂で信号が弱いんだけれど、普通、そういう設計はしないだろう。常に垂直偏波ってのも ちょっと考えられない。連中、水平偏波が好きそうだし。(^^;)
で、ちょっと検索してみたら、Oscar5号のときから 磁石を使ったAttitude Stabilizationのための機構は積んでいたらしい。当然、Spinもさせている。
Spinの軸は、やはりダイポールの軸と同じだろう。それで、磁石による姿勢制御ということになると、やはり 2. なのではないだろうか。これだと、天頂に位置するときは、自宅のアンテナと偏波が90度ズレていることになり信号強度が上がらないという現実と良くマッチする。
もちろん、3. だとすると、自宅のアンテナと同じ方向なので現実と矛盾してしまうことになる。
てなことを考えていると、夜眠れなくなってしまう。これはやはり南北に張ったダイポールを用意して現用の東西ダイポールと比較してみるしかあるまい。
というわけで、急きょアンテナの仮設置とあいなったのである。ダイポールは無理だったので、逆V(頂角約90度)だ。地上高としては現用DPよりも少し高いが、1m程度なので誤差の範囲だろう。
で、受信してみた。MEL=約60度というパスである。やはりAOSからすぐ聞こえるということはなかったが、先に聞こえたのはやはり南北に張った逆Vの方だった!!
両アンテナを頻繁に切り替えてみたが、QSBはあるものの、常に逆Vの方が強力で、逆Vで聞こえなくて現用DPで聞こえるということは無かった。
そうか、やはりそういうことだったのか。移動運用では、多くが低仰角のパスで、MEL方向にビームを向けていたし、天頂パスのときは確かに逆Vを南北に張っていたのである。
それでは、次の疑問。上図の2.の姿勢で飛んでいるとして、はたして144MHzのアンテナは前か後か・・??
うーむ・・これについては、LOSよりもAOSの方がアクセスしにくいことから、144のアンテナは後になっているのではないかと推測する。
だから何なのよ・・・と言わないで〜(^^;)
しかし、ここで重大な発見をしてしまった。
フリーな天体シミュレータである Celestia のアドオンに AO-7 が用意されているのだが、こいつは 3.の姿勢で飛んでいるのである!
ホントかよ!?
さて・・
・・なんか忘れてるな・・と、思ったら、ファラディ効果*1だった。
地球磁場、電離層中の電子そして電波が相互に作用することより、偏波面が回転してしまう・・この現象は、通信分野では ファラディ回転 として知られている。
この回転角度は、ほぼ周波数の自乗に反比例するといわれており、つまり周波数が低いほど盛大に回転してしまう。29MHzなら100度以上は軽く回転してしまうようだ。
そして、その回転の周期は、50MHzで10分〜20分といわれているので、それよりはすこし短いものと推測できる。
で、結論なのだが・・
このファラディ回転の存在により、東西/南北のダイポール切り替えでは、衛星の姿勢を推定することはできないのである。
AO-7は、高度1500kmあたりを飛んでいる。もっとも高い電離層であるF層は約400kmあたり。いかに太陽活動の低迷期といえども、電離層を横切る際に偏波面は間違いなく回転してしまうのである。
おそらく、もっと観測を続けていれば、東西に張ったダイポールでの信号強度の方が強い局面にも出くわしたはず。
すみません。お騒がせいたしました。(^^;)
振り出しに戻る。
しかし・・だ、
衛星が低仰角で東または西を通過することを考えてみると、3.の姿勢だとダイポールのエレメント展開方向への輻射はほとんど無いのだから、偏波がどうのこうのという以前に通信はできないことになる。
やっぱり、そういう設計は普通しないんじゃないかな。
というわけで、AO-7の姿勢として2.が有力であることは間違いないのではなかろうか。
2010/03/24 追記:
しかし、よくよく考えてみると、「スピンの軸は軌道面に垂直」というのが多くの天体に共通している事項であり、それが安定であることの条件でもあることは事実である。
磁石による姿勢安定機構もあるということで、2の姿勢が有力なのではという考えもあったのだが、やはり、AO-7の姿勢は 上記3で、CelestiaのAO-7もホントである・・という可能性は高い・・のかも(^^;)。
当のAO-7は、Aモード(145/29 MHz)ではしっかり使えている*2ものの、最近は145.972MHzと29.502MHzのビーコンが聞こえてきていない。2008年4月の時点では、すくなくとも145MHzのビーコンは出ていたし、ちゃんとCWを打っていた。*3
全日照の時間が増えたということは、それだけ太陽からの輻射に曝されているということであり、システムの半導体等が受けるダメージも大きくなっているというわけか。
*1 発見者のマイケル・ファラディはイギリス人であるから、"ファラデー効果"とは書きたくない。(^^;)
*2 2010/03/24現在、JA7KPIのAO-7経由の交信数は 105。
*3 29MHzのビーコンの方は、うねる(?)ようなキャリアしか確認できず、07年12月に使い始めてからCWが聞こえたことは一度もない。