ATUを使用したいわゆる「のめしアンテナ」の利点のひとつに「マッチングを気にしなくてよい」ことがあげられる。つまり、「エレメント長はテキトーでもなんとかなる」のである。と、なれば、その「テキトー」でよいエレメント長を増減させて「より飛ぶアンテナ」にできないか・・・という考えがすぐに浮かぶわけだ。
そういうわけで、今回は「のめしアンテナの最適化」に挑戦してみることにする。
しかし、すべての周波数においてダメなアンテナってのは簡単に設計できるが、すべての周波数において優れた性能を発揮するアンテナってのは、そう簡単に創れるものではない。それを言っちゃぁお終いなのだが・・・
以下の表は、各周波数においてエレメント長を変化させたときの打ち上げ角(輻射角)8度、18度、35度の各方向での絶対利得(by MMANA for NEC2)である。8度方向は 対流圏伝搬やDX、16度方向は Esや国内DX、35度方向は 国内近場を想定。maaデータファイルは、「考察 1」に使用したものを基本とした。
MHz | Length(m) | 8dig(dBi) | 18dig(dBi) | 35dig(dBi) |
1.91 | 7.7 | -10.64 | -8.20 | -8.21 |
1.91 | 8.8 | -9.59 | -7.16 | -7.18 |
1.91 | 9.9 | -8.80 | -6.37 | -6.40 |
1.91 | 9.9+2.0 | -8.29 | -5.86 | -5.90 |
1.91 | 9.9+3.5 | -8.11 | -5.68 | -5.71 |
1.91 | 9.9+5.0 | -8.07 | -5.64 | -5.67 |
1.91 | 9.9+7.0 | -8.19 | -5.75 | -5.78 |
3.51 | 7.7 | -7.12 | -4.13 | -3.82 |
3.51 | 8.8 | -6.54 | -3.56 | -3.29 |
3.51 | 9.9 | -6.08 | -3.12 | -2.87 |
3.51 | 9.9+2.0 | -6.73 | -3.74 | -3.44 |
3.51 | 9.9+3.5 | -6.71 | -3.73 | -3.42 |
3.51 | 9.9+5.0 | -6.68 | -3.69 | -3.37 |
7.01 | 7.7 | -5.46 | -2.00 | -1.53 |
7.01 | 8.8 | -5.22 | -1.80 | -1.45 |
7.01 | 9.9 | -5.01 | -1.63 | -1.42 |
7.01 | 9.9+2.0 | -4.90 | -1.55 | -1.40 |
7.01 | 9.9+3.5 | -4.88 | -1.52 | -1.37 |
7.01 | 9.9+5.0 | -4.91 | -1.55 | -1.37 |
10.13 | 7.7 | -4.74 | -1.21 | -0.98 |
10.13 | 8.8 | -4.56 | -1.12 | -1.17 |
10.13 | 9.9 | -4.35 | -1.01 | -1.38 |
10.13 | 9.9+2.0 | -4.70 | -1.20 | -1.06 |
10.13 | 9.9+3.5 | -4.73 | -1.23 | -1.07 |
14.05 | 5.0 | -4.46 | -0.73 | -0.03 |
14.05 | 7.7 | -3.76 | -0.37 | -0.72 |
14.05 | 8.8 | -3.38 | -0.19 | -1.07 |
14.05 | 9.9 | -2.95 | 0.02 | -1.39 |
14.05 | 9.9+2.0 | -2.79 | 0.04 | -1.57 |
14.05 | 9.9+3.5 | -2.93 | -0.22 | -1.86 |
14.05 | 13.8 | -1.68 | 0.60 | 1.51 |
18.08 | 4.0 | -4.41 | -0.53 | 0.78 |
18.08 | 7.7 | -2.39 | 0.70 | -0.16 |
18.08 | 8.8 | -1.89 | 0.84 | -0.37 |
18.08 | 9.9 | -1.58 | 0.79 | 0.41 |
18.08 | 10.4 | -1.46 | 0.86 | 1.21 |
18.08 | 13.5 | -3.29 | -0.04 | 3.66 |
21.05 | 4.0 | -5.20 | -1.16 | 0.94 |
21.05 | 7.7 | -1.44 | 1.32 | 0.31 |
21.05 | 8.8 | -1.43 | 0.99 | 1.61 |
21.05 | 9.9 | -2.86 | -0.01 | 3.11 |
21.05 | 12.0 | -5.29 | -1.14 | 3.58 |
24.90 | 3.0 | -3.67 | -0.08 | 0.28 |
24.90 | 7.7 | -0.68 | 1.77 | 2.60 |
24.90 | 8.8 | -1.82 | 0.96 | 4.09 |
24.90 | 9.9 | -2.42 | 1.10 | 3.77 |
28.05 | 3.0 | -3.21 | 0.20 | -0.40 |
28.05 | 7.7 | -0.06 | 2.23 | 3.46 |
28.05 | 8.8 | -0.72 | 2.30 | 4.20 |
28.05 | 9.9 | -1.06 | 2.33 | 3.76 |
1.9MHz 「のめしアンテナ」の場合、たいていは釣り竿を利用しており、その長さは10m程度であるという制約が存在するため、ロウバンドでは、圧倒的にエレメント長が足りない。
そのため、釣り竿の先端から数メートルエレメントを下に降ろす(垂らす)という手法をとっている局もいる。Length欄の 9.9+5.0 という表記は、これをあらわしているが、NEC2の計算では、5mまではわずかな改善が見られる。しかし、その効果は0.3dB程度であり、「改善」とまではいえないような気もする。また、7mまで伸ばすと逆に悪化し始める。この「折り返し部分」の長さがλ/4程度になると「飛び」にかなり影響することも考えられるが、今回の考察ではそこまでは計算していない。
3.5MHz 7.7mと9.9mでは、9.9の方が1dB程度有利。しかし、これに折り返し部分をつけると、その長さが2mであっても悪化してしまう。
7MHz 7.7mと9.9mの利得差は0.1〜0.4dBであり、エレメント長が既にλ/4に近づいているせいか、1.9や3.5ほどの差は現れない。また、折り返し3.5mまではわずかな改善(0.1dB程度)が見られる。
10MHz この周波数帯でのλ/4は7.4m。これを通り越し、9.9m(約λ/3)になっても低打ち上げ角での利得は上昇し続けている。つまり、λ/4にこだわる必要はないような気がする。(λ/4というエレメント長は、完全なアース=完全導体大地が得られる状況でのみ意味を持つものであるといえるのではないだろうか)
また、ここでもエレメント長による差はあまり出てこない。折り返し部による改善は、高打ち上げ角でわずかに見られる程度であるが、高打ち上げ角での利得を考えるのであれば、エレメント長はλ/4程度の方がよさそうである。
14MHz この周波数帯でも、エレメント長は長い方が良さそうだ。折り返し部の効果は、低打ち上げ角でわずかに見られる。
低打ち上げ角で利得最大となるエレメント長を計算してみたところ、13.8mとなった。ほぼ 5/8λである。しかし、高打ち上げ角方向では、λ/4程度の長さでも問題なさそうだ。
18MHz 利得最大となるエレメント長は、低打ち上げ角で10.4m。これも、ほぼ 5/8λ。高打ち上げ角では13.5mとなった。
21MHz ここまで来ると、やはり5/8λに注目せざるを得ない。予想どおり、低打ち上げ角では5/8λに近い8.8mがいい。また、中打ち上げ角ではそれよりも若干短い7.7m(0.54λ)、高打ち上げ角では12m(0.84λ)で利得最大となった。
24MHz 7.7mは、ほぼ5/8λである。やはり、144MHz用ホイップアンテナなどと同様に、HF帯でも低打ち上げ角で最大利得を得られるのはエレメント長が約5/8λの場合のようである。
28MHz この周波数帯で5/8λというと、6.68mである。シングルバンドであれば迷わずエレメントを切りつめるところだが、「のめしアンテナ」はマルチバンド使用が大前提であるため、あえて5/8λ近傍での計算はおこなわなかった。しかし、それでも利得は他の周波数帯よりも高くなっている。
まとめ
アンテナの利得については、低打ち上げ角で最大利得を得ることのできるのは、(やっぱり?)エレメント長が5/8λ程度のときであることがわかった。しかし、ロウバンドにおいて5/8λの長さの釣り竿を用意することは極めて困難である。
また、ロウバンドにおけるエレメント先端を下に降ろす(垂らす)という手法についてだが、今回の考察(計算結果)では、わずかな改善しか得られず、ATUの効率(損失)に関係してくる可能性はあるものの、残念ながらアンテナの利得上昇にはほとんど寄与していないものと判断せざるをえなかった。
(3/23追記) ただし、改善効果は少ないものの、悪化の度合いも大きいとはいえず、折り返し部分がロウバンドにおけるマッチングに寄与している可能性も否定はできないため、さらなる考察が必要と思われる。
ゲインを追求する場合、ロウバンドでは、とにかく上に向かってエレメントを伸ばすしかないような感じである。それができない場合、エレメント長が7.7mでも9.9mでも、さほど飛びに変化はない。
ハイバンド、特に18MHz以上では、釣り竿の長さを5/8λ以上にすることができるため、最大利得を得ることは比較的容易である。
以上の考察およびNEC2の計算結果から、「のめしアンテナの最適エレメント長」を決定するとすれば、7m〜9m といえるのではないだろうか。ワタシなら、おそらく8.8mにするだろう。
1.9や3.5MHzで力不足を感じる場合は、こうしたらどうだろう。8.8m×2=17.6mのワイヤをエレメントとして、7MHz以上では8.8mで折り返し、ワニ口クリップか何かで再度給電点に接続する。3.5と1.9MHzでは給電点からワニ口クリップを外して延長用エレメントを継ぎ足し、ナイロンロープ等で、できるだけ水平に引っ張る・・・(つまり 逆L ね)。このようにしてロウバンドとハイバンドを切り替えるという手もあるのではないだろうか。
この方式(逆L)だと、低・中打ち上げ角での利得にはほとんど改善効果が見られない(低下する場合もある)が、高い打ち上げ角での利得は3dB程度改善される場合がある。ただし、エレメント全長としてλ/2程度は必要になるので、今度は釣り竿の強度が問題となるかもしれない。
「のめしアンテナ」は設置・QSY・撤収を高速におこなうためのソリューションであるから、できるだけ のめしこきたい ところなのだが、どの程度であれば許せるのか・・・・極めて難解な命題といえよう。(^^;)
3/22追記:
全長8.5mの電線があったので、伸縮ポールを利用し、とりあえず のめしアンテナ風に設置してみたのだが、7MHzと21〜28MHzでは OKだったものの、1.9、3.5、10〜18MHzでは TS850の内蔵ATUではマッチングがとれなかった。また、60cmほど切って7.9mにしてもNGであった。(7MHzでの運用では、全長7.9mでも問題なく飛んでいたようである。N9から呼ばれたんだけど、本物?)
まあ、私のクルマ(パジェロJr)では、L分もC分も小さすぎるという気もする。アース側にラジアルとかつければなんとかなったのかもしれない。専用のATUでは、850内蔵ATUよりもマッチング範囲が広いものと思われるが、はたしてどうであろうか・・・
こんにちは。大変に興味深い考察拝見いたしました。<br> ワイヤ長が9mくらいが使い勝手がいいというのは、元々この<br>スタイルのお手本と言うべきJA0EAI窪田OMが実践していた長さだ<br>ったと思います。<br> 私が今の長さ(約15m)でやっているのは、1R9に対して少しでも<br>長さがあった方がいいのかなという思いがあったからです。<br><br> ATUは結構個体差がありAH-3などはかなり長さを必要とするよ<br>うですが、私の使っているAT-300やSG-230ではそれ程長さはい<br>らないようですが、取り説を読むと3.5では概ね2.5m、1.9では<br>12m程度は必要のようだったのでとりあえずその辺から初めてみ<br>ましょうか。。。と言う感じでした。<br> 実は折り返し部分は要らないのではないか。。。と言う考えは<br>おぼろげに持ってはいたのですが、KPIさんの考察を拝見して、<br>これは今後実験の価値ありかなと思っています。<br> 折り返してたらしている部分は風で揺れるとSWRが大きく変わ<br>り、最悪電源コネクタを焼いたりしますので、無くても動作に支障<br>がなければない方がいいんですよね。風を気にしなくていいし。<br><br> それから内蔵ATUがせいぜい150Ω(SWR=3)まで対応に対して、<br>外付けATUは数千Ωまで対応なので範囲は違うと思います。<br><br> 新市祭りが一段楽したら、ちょっとやってみようかな。
コメントありがとうございます。<br><br>> 元々このスタイルのお手本と言うべきJA0EAI窪田OMが実践していた長さ<br>これは興味深いですねー。やはり実践の積み重ねによるものは強いですからね。<br><br>> SWRが大きく変わり、最悪電源コネクタを焼いたり<br>ワタシも、ワイヤ長を変えていろいろやってたときに、よせばいいのに<br>ヘッドホンを差したら、いきなり火を噴きました。<br>実は、ヘッドホンにAFフィルタを内蔵していて、そのフィルタのフィルムコンデンサが焼けてしまったのでした。このとき、TS850のヘッドホン基板上のチップ抵抗も焼けてしまいました。(^^;)<br><br>> 外付けATUは数千Ωまで対応<br>あ、やはり対応範囲はかなり広くなっているんですね。これは、入手を考えなければならんなー。
再びお晩です。<br>>これは興味深いですねー。やはり実践の積み重ねによるものは強いですからね。 <br><br> このスタイルで結構長く実践されているようです。<br> キャリアをボンディングしてSG-230を螺子止めし、いつもつ<br>けっぱなしだそうです。短い軸受け用のパイプも取り付けてあ<br>り、そこに鮎竿を刺して9mワイヤで運用。<br> 1.9の時は横方向にも竿をだし一端水平に伸ばしてから立ち上<br>げて11mワイヤを使用するとのことでした。<br><br>>ワタシも、ワイヤ長を変えていろいろやってたときに、よせばいいのに<br>>ヘッドホンを差したら、いきなり火を噴きました。 <br><br> うおっ^^; これはコワイ。<br> 私も回り込みで高周波火傷しそうになりました。ワイヤ長に<br>寄っても変わるんでしょうけど、一部のバンドで回り込みで、<br>ヘッドホンでモニタしてても送信時にサイドトーンがボボボと<br>言う感じになることがありますね。<br><br>>あ、やはり対応範囲はかなり広くなっているんですね。これは、入手を考えなければならんなー。<br><br> 確か6000Ωとかなんかの取り説に書いてあったような。。<br> 多分どこの奴も似たような仕様かと。